研究内容

Contents

日本語

主な研究対象

  1. 宿主・寄生体相互関係の解明。
  2. 寄生虫病(原虫性疾患・線虫性疾患・吸虫性疾患・条虫性疾患)、ベクター媒介感染症(ダニ類・昆虫類が媒介する感染症)及び顧みられない熱帯病(Neglected Tropical Diseases 以下NTDs)に対する予防・診断・治療法の開発。
  3. アフリカ、アジア諸国におけるベクター媒介感染症、NTDs等の調査。

キーワード

原虫;線虫;吸虫;住血吸虫;吸血性節足動物;ベクター;マダニ;寄生;生物多様性;生物間相互作用;宿主寄生体相互作用;マダニ・宿主・寄生体3者相互作用;分子細胞生物学

感染症;顧みられない感染症NTDs;ベクター媒介感染症;マダニ媒介感染症;住血吸虫症;人獣共通感染症

感染症創薬;NTDs創薬;大村天然化合物;寄生虫病創薬;抗住血吸虫薬

気候変動;流行地;国際協調;野口記念医学研究所(ガーナ);ユニバーサル・ヘルス・カバレッジUHC;持続可能な開発目標SDGs

研究テーマ

私たちのミッションは「寄生」の探究です

私たちのミッションは「寄生」の探究です。

寄生虫は私たちの体内に侵入すると、最終寄生部位に向かって臓器・器官を通って移動します。発熱などの症状をもたらすのはこの時ですが、寄生虫サイドは宿主環境に適応するために様々な防衛手段をとっています。寄生虫はウイルスや細菌と違って、私たちと同じ真核生物です。ゲノムサイズは哺乳動物とあまり変わりません。

私たちは、宿主環境を生き抜くために低酸素応答など寄生虫独自の代謝活動の存在を明らかにして来ました。複雑怪奇な生存戦略には、寄生虫特有の生理機能を発揮するロンギスタチンなどの生物活性分子が関わっていることを見出してきています。今、最新の分子細胞生物学的手法やノックアウト寄生虫を活用して、寄生虫対宿主のゲノムの戦いを探っているところです。寄生の仕組みが分かる日がすぐそこまで来ています。

寄生現象は生物間相互作用の典型的な例です。自由生活型の祖先から出発し、寄生生活に移行後の進化の過程において宿主環境に適応するための宿主特異性や臓器特異性など仕組みが明らかとなり、種々の寄生虫誕生の起源が解き明かされるものと期待されます。


私たちの基礎研究は抗寄生虫薬の開発にも役立っています。寄生虫特有の生理活性分子は格好の薬剤標的分子になることが分かって来ました。安全性と有効性を保証する抗寄生虫薬の開発につながるとして大きな期待が寄せられています。

寄生現象は肉眼で観察できますので、“寄生“に関する疑問が次々を湧いてきます。何で異物として認識されないのか、どうして長時間に渡って吸血できるのか、そこには多年に渡って築き上げてきた宿主寄生体相互作用があります。


私たちの研究テーマは、“生きた寄生虫”のおかげで実に豊富です。寄生虫生物学、生理機構の解明にとどまらず、宿主の病態解明、抗寄生虫薬開発など幅広く実施できるようになっています。私たちの研究室は、世界的にも数少ない生きた寄生虫を用いて生物学、感染症研究が出来るラボです。
糸状や扁平など寄生虫には様々な種類が知られていますが、大きく分けると内部寄生虫と外部寄生虫に分けられます。一般にイメージされる寄生虫は前者ですが、後者にあたるのは蚊やダニで私たちの体表で寄生する吸血性昆虫・節足動物です。

私たちの研究室では住血吸虫とマダニが常時繁殖・継代されています

貝を中間宿主とする住血吸虫

住血吸虫は自然環境の中で貝に棲みつくなど、ライフサイクルは複雑ですが中間宿主など寄生虫にしか見ることの出来ない生活様式がいくつも備わっています。そんな“the Parasite”とも言える住血吸虫が私たちのラボにいます。最近実施したNGS解析から出身は西アフリカであることが分かって来ました。苦難の歴史を乗り越えてプエルトリコを経由して私たちのラボに来て約50年が経っています。

住血吸虫は皮膚から感染します(流行地での様子)

住血吸虫のライフサイクル

貝の体内で発育する幼虫ステージのセルカリアとスポロシスト

セルカリア(動画)

シストソミューラ(動画)

腸管膜静脈内に寄生する成虫(画像・解説)

成虫の動きがご覧いただけます(動画)

血液を唯一の栄養源とするマダニ

マダニは世界3大ベクターの1つです。WHOが制定する世界保健デーの年間テーマにも挙げられているように、マダニが媒介する感染症の対策は非常に重要となってきています。しかし、マダニ体内でヒトや動物の病原体がどうやって存続しているのかほとんど分かっていません。

外から帰って、痛みもないまま黒ゴマ、時には小豆大の塊に気づいたことはありませんか。それがマダニです。脱皮や産卵など成長に必要な栄養源は動物の血液で賄っています。

私たちはマダニの一生を実験室内で完全に再現できる繁殖系を保有しています。約50年前に馴化に成功、感受性株として世界的にも貴重なマダニのコロニーです。

マダニ刺咬予防啓発ポスター

吸血中の若ダニステージ

マダニのライフサイクル

私たちが保有するマダニ種はフタトゲチマダニ(Haemaphysalis longicornis)と呼ばれる種で、日本、東南アジア、オーストラリアにかけて広く棲息します。

マダニの吸血様式

マダニの吸血行動過程

マダニの人工吸血系

人工吸血系も開発し、マダニ生理活性分子の性状解明や媒介する病原体の挙動を詳細に調べられるようになっています。

研究成果

1.宿主・寄生体相互関係の解明

走光性など新たな生理機能が見出されています

*Selected publication
Positive phototropism is accelerated in Biomphalaria glabrata snails by infection with Schistosoma mansoni. Parasitol Int. 67: 609-611 (2018) Maeda H et al.

住血吸虫感染貝は光に向かって進む

マダニの持続吸血を可能にする唾液腺生物活性分子

マダニ特有の吸血様式には、ロンギスタチンなど私たちなど宿主にはない生理活性分子によって支えられていることが分かってきました。マダニは生物界最強の“Pharmacologist”に例えられています。実際、医薬品のもとになるものも見出されてきています。

マダニ-宿主相互作用の解明

  • 病原体媒介節足動物のバイオロジー-「マダニの吸血生理」,医学のあゆみ 259, 1187-92, (2016) .辻 尚利・八田岳士
  • Longistatin in tick saliva blocks advanced glycation end-product receptor activation.
    Journal of Clinical Investigation 124:4429–4444. (2014) by Anisuzzaman et al.
  • Semi-artificial mouse skin membrane feeding technique for adult tick, Haemaphysalis longicornis. Parasit & Vectors 15: 263. (2012) by Hatta T et al.

RAGE アンタゴニストのマダニロンギスタチン

2.寄生虫病(原虫性疾患・線虫性疾患・吸虫性疾患・条虫性疾患)、ベクター媒介感染症(ダニ類・昆虫類が媒介する感染症)及び顧みられない熱帯病NTDsに対する予防・診断・治療法の開発。

住血吸虫症創薬

住血吸虫症は世界各地に流行地が形成され、NTDsの中で最も被害の大きい疾患です。感染症克服のロードマップである制圧、排除、根絶を達成するためには新たな抗住血吸虫薬が必要です。
現在、前述した住血吸虫の薬剤評価系を用いて幼虫成虫を問わずに有効性を発揮するヒット・リード化合物の探索を進めています。大村天然化合物と住血吸虫スクリーニング系からどんな創薬イノベーションがもたらすのか今、世界が注目しています。

Schistosomiasis and hookworm infection in humans: impact, current status, and anthelmintic vaccines. Parasitol Int. 75: 102051 (2020) by Anisuzzaman & Tsuji N

リード化合物の探索戦略

大村智記念研究所との共同研究

シストソミューラを用いた評価系

生死判定用の蛍光色素を分注しているところ

マダニの吸血・病原体伝播調節物質

寄生虫は皮膚穿孔、組織内移行、吸血など様々な寄生現象を支える多種多様な生理活性物質を保有しています。寄生虫独特の生理活性物質の機能と構造は、新たな感染症予防技術の開発に役立ちます。副作用のない抗寄生虫薬の創出が期待されます。

マダニの吸血・病原体伝播調節物質

マダニ媒介性感染症

マダニの中腸バリヤー

  • マダニから学ぶバベシア症制御の手がかり-感染症研究のあらたなパラダイム形成をめざして.医学のあゆみ.236巻,289-296.(2011) 辻 尚利
  • Establishment of a novel tick-Babesia experimental infection model. Scientific Reports 6:37039. (2016) by Maeda H et al.
  • The Kunitz-like modulatory protein, Haemangin, is vital for hard tick blood feeding success. PLoS Pathog. 5, e1000497. (2009) by Islam MK et al
  • A cysteine protease is critical for Babesia spp. transmission in Haemaphysalis ticks. PLoS Pathog. 4, e1000062, (2008)by Tsuji N et al
  • Babesial vector tick defensin against Babesia sp. parasites. Infect Immun. 75, 3633-3640. (2007) by Tsuji N et al

マダニの持続吸血を可能にする唾液腺生物活性分子

これまでケニア、ウガンダなどの東アフリカ諸国における寄生虫病の調査を実施してきましたが、2018年より西アフリカにも出向いています。ガーナの野口記念医学研究所を拠点にして住血吸虫症やベクター媒介感染症の調査・研究を実施しています。法人北里研究所支援のもとで北里型ワンヘルス教育研究プログラムを展開して、NTDs病原体循環サイクルの場であるヒト、動物、環境の健全性を横断的に享受できる人材の養成を図っています。日本学術振興会拠点形成事業によって(2020年度採択)、アフリカ人による持続可能な感染症人材の育成と教育研究機関づくりの強化が期待されています。

研究拠点形成事業ホームページ

ナイロビ大学との共同調査

野口記念医学研究所との共同調査

担当講義

学部

寄生虫学・熱帯医学(医学部医学科)
感染症・免疫系診断・治療学(医学部医学科)
寄生虫検査学(医療衛生学部臨床検査学科)
臨床検査総論Ⅱ(医療衛生学部臨床検査学科)

大学院

国際寄生虫病制御学(医療系研究科環境医科学群)